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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)1613号 判決

原告 上原フミ

〈ほか一名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 原長一

同 佐藤寛

同 増淵実

同 桑原収

被告 上原直二

右訴訟代理人弁護士 村上直

主文

本件訴は適法である。

事実

原告ら訴訟代理人は請求の趣旨および原因として別紙(一)のとおり述べた。

被告訴訟代理人は、本案前の抗弁として「原告らの本件訴はこれを却下する。」との判決を求め、その理由として、

本件訴は、相続財産である別紙(二)記載の物件(以下本件物件という)の分割を求める訴であるところ、遺産分割は、家庭裁判所にこれを求めるべく、当裁判所になした本件訴は不適法であるから却下を求める。なお本件物件については未だ遺産分割がなされていない。即ち、原被告は、昭和三三年一月二七日死亡した上原誠の相続人で、健の相続人としては、他にも義三がいる。右徳三は、昭和三六年、原被告ら三名を相手方として遺産分割の調停申立(東京家庭裁判所同年(家イ)第四〇六六号事件)をなし、昭和三八年七月一二日、別紙(三)記載の物件のうち(2)ないし(4)の相続財産を右義三の所有となし、爾余の遺産一切を原被告ら三名の所有とする旨の調停が成立したが、右調停に於いては、右「爾余の遺産一切」については、後に原被告らが協議することとして遺産の分割はなされなかった。而してその後、昭和三九年に、被告は原告両名を相手方として遺産分割の調停申立(東京家庭裁判所同年(家イ)第四三七七号事件)をなし、昭和四二年四月二一日、本件物件は相続財産として原被告ら三名の共有であること、及び右物件につき共有の登記をなすことという調停が成立したが、右調停は、その調停条項自体から明らかなように、訴外義三と原被告らとの間の前記調停の調書中、「(原被告ら三名が)爾余の遺産一切を取得する」旨の条項の内容を明らかにしたにすぎず、従って従来共有でなかった物件を新たに共有となしたものではなく、相続開始の当初より共有となったものを単に共有と確認したにすぎない。

と述べ(た。)≪証拠関係省略≫

原告ら訴訟代理人は、被告の本案前の抗弁に対し、

一、本件物件はかつて相続財産として、原被告ら及び訴外義三の四名の共有(民法第八九八条)であったことは認めるが、原告両名と被告との間には、被告の主張する東京家庭裁判所において遺産分割調停事件(東京家庭裁判所昭和三九年(家イ)第四三七七号事件)において、調停が成立し、その結果、本件物件は、原被告らの共有であること、その持分割合が各持分三分の一であることが確認され、その持分の割合に従って登記が完了されたものである。従って本件物件は、既に遺産分割の調停を経て単純な民事上の共有関係にあるにすぎないから本件訴は適法である。

と述べ(た。)≪証拠関係省略≫

理由

≪証拠省略≫によれば、上原誠の死亡により、相続人の一人である上原義三から、他の相続人である原告両名、被告を相手方としてなされた遺産分割調停事件(東京家庭裁判所昭和三六年(家イ)第四〇六六号事件)について、昭和三八年七月一二日、東京家庭裁判所において、上原誠の遺産のうち、別紙(三)記載の物件のうち(2)、(3)の所有権と(4)の権利及び株式会社上原商店の一切の株式及び営業権は義三が取得し、原被告ら三名は共同して「爾余の遺産一切」を取得即ち共同所有とするとともに、その代償として原被告ら三名から金一五万円を義三に支払うことなどを骨子とする調停が成立したこと、ならびに右に「爾余の遺産一切」というのは本件物件のほか小俣次郎から借りうけた土地賃借権であること、しかして右調停の成立によって上原誠の遺産の分割は完了したものと認めることができる。なお付言すれば、≪証拠省略≫によると昭和四二年四月二一日、東京家庭裁判所において調停(東京家庭裁判所昭和三九年(家イ)第四三七七号事件)が成立しているが、これは前記の調停における条項の解釈を確認したものにすぎないと解するのが相当である。

而して遺産の一部もしくは全部につき共同相続人の共有とする遺産分割の調停の適法であることは多言を要しないし、右による共有関係は民法二四九条ないし二六二条により律せられ、遺産分割に関する法令の適用を受けるべきものではないから、共有物分割の訴(民法第二五八条)を提起することも又適法であるところ、本件においても前記昭和三八年における調停において遺産分割が完了し、本件物件につき原被告らの共有とされたこと前記認定のとおりであるから、本件物件につき分割を求める本件訴は適法である。

よって主文のとおり中間判決する。

(裁判官 秋吉稔弘)

〈以下省略〉

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